明日、君を好きになる
『おはようございます。いつもの…モーニングセットで良いですか?』
お冷を出しながら、初めてこちらから声をかけると『ああ、それで頼むよ』と、無理やり作ったような笑顔を見せた。
彼はそれだけ言うと、カウンターの上に肘を立て手を組み、自分の額を付けて、目を閉じる。
半年近く、毎日のように対応していて、彼のこんな姿は初めて見た。
そもそも、この男性の仕事が本当にバーテンダーなのかは分からないけれど、今まで、朝まで仕事をしているわりには、ここまで疲れた感じはなかった気がする。
店内は、雨のせいもあるのか、この時間帯彼以外の来店もなく、癒し系の音楽だけがゆっくりと流れていて、妙に静かだった。
カウンター内側にあるミニキッチンで、慣れた手つきでパンケーキを焼き、サラダとヨーグルトを添えると、最後にハンドドリップで落としていたコーヒーを、カップに注ぐ。
瞬間、コーヒーの香りが、店内にふわりと広がった。
朝が苦手な渚ちゃんの代わりに、開店から9時までを一人で任されてから数か月、さすがに手際も良くなり、ものの数分でいつものようにモーニングセットが完成。
木製のトレイに載せ、そのまま提供しようとして、不意に立ち止まる。