明日、君を好きになる
いっそ、こんな気持ち、気づかなければよかった。

困ったことに、忘れなければいけないと思えば思うほど、想いは深くなる。

もちろん、私には立ち止まって待つつもりも、時間もない。

今、やらなければいけないことがたくさんあるのだから。

一人の時間は、彼を思い出す余地のないくらいに、一心不乱に、勉強にのめり込む。

こんな風に、気持ちを振り払うためにやるつもりはなかったことが、今はむしろ救いになるなんて皮肉なものだ。

だから私は、この時はまだ、小野崎さんがどうして姿を消したのかなんて、あまり深く考えたりはしなかった。



『先生になるなら、規則正しい生活をした方が良いわね』

10月に入る頃、渚ちゃんがシフトの変更を提案してきた。

教壇に立つのなんて、まだまだ先なのに…と言ったのだけど、習慣はつけておいた方が良いからと、オーナーの権限で、私は9時からの通常のシフトに戻った。

それは、渚ちゃんの気遣いだというのは、充分わかっている。

…確かに、朝のあの時間帯、毎日鳴らないベルが辛かった。

偶然、いつものあの時間に入ってきたお客様に、動揺してトレイを落とすこと数回。

その度に、胸が締め付けられたように苦しくなり、待っているつもりなどないはずなのに、切なさが募った。

朝夕が底冷えして、日に日に秋が深まって行く中、時間だけは無常に過ぎる。

この想いは、一向に消えてはくれないのに、あの夜の小野崎さんのぬくもりや感覚は、ゆっくり薄れていくようで、それが一番苦しかった。
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