明日、君を好きになる
『すみません、追加注文お願いします』
店内奥の席に座ったお客様に呼ばれ、『私が行くね』と、オーダーを取りに向かう。
呼ばれた席には、就活中の学生さんらしき、リクルートスーツを着た女性3人。
テーブルの上には、この近くの企業のパンフレットが、いくつか散らばっていた。
既に食事を終え、追加のドリンクを注文される。
『え!恭介さんって、自主的にバー辞めたんじゃなかったんっすか?』
オーダーを取り終えると、すぐ後ろから聞こえた会話が、私の耳を捉えた。
ドキッ
”え…今の話…って…?”
声のした方を見れば、一つ先にある2人掛けのテーブル席に向かい合わせに座ってる男性二人組。
一人はまだ20代前半で、もう一人は30前後といった組み合わせ。
共にラフな服装で、この辺の企業勤めではなさそうだった。
『表向きはそういうことになってるらしいけどな』
『ってことは、首切られたってことっすか?』
『ああ…アイツ辞めた前日、仕事すっぽかして、女のとこ行ったらしい』
『まさかっ、あの恭介さんが?』
後輩らしき男性が”信じられない”と、驚きが隠せない様子。
急激に、心臓の鼓動が高鳴りだす。
既にオーダーは取り終えたので、本来であれば直ぐにキッチンに通さないといけないのだけど、思わず立ち止まり、近くの席のバッシングをしながら、聞き耳を立ててしまう。
『その女って、例の…恭介さんが女避けのために契約してたっていう、”嘘カノ”ですかね?』
『さあな。一緒にいた奴の話だと、客の見送りしてたら、ちょうど近くの路上でその女が男に持ち帰られそうになってたんで、血相変えて飛んで行ったらしい』
『いや、あのクールなイメージの恭介さんが…全く想像できないっすね』
『女なんか興味なさそうだったけど、ヤツもしょせん普通の男だったってわけだ』
私は、いたたまれず、その場を離れた。