明日、君を好きになる
…なんで、気づかなかったんだろう?

普通に考えたら、あの時間、あの場に小野崎さんがいたことに、もっと疑問を持つべきだったのに。

…仕事を抜け出した?

そのせいでバーを辞めさせられたの?

カフェのフロアでは、決して絶やすことのなかった笑顔が保てない。

『江梨子さん?どうしたんですか、顔色悪いですよ』
『ごめん。すぐ戻るから、これお願い』

カウンターの内側に戻ると、咲ちゃんに今取ったオーダーを手渡し、いぶかしげに見る彼女を残して、バックグランドにまわる。

休憩室ではなく、裏口に出る手前のパントリーに使っている小部屋に入り、閉めた扉の内側に背をつけると、力が抜けたように座り込んだ。

小野崎さんが自分のせいで、バーを辞めさせられてしまっていたなんて、考えもしなかった。

あんな風に期待させて、なぜ会いに来てくれないのか…なんて、嘘つきだと憤りすら覚えていた自分が許せない。

小野崎さんにとって、副業とはいえしっかりした収入源であったはずの、バーテンダーの仕事。

それを、奪ってしまった女になど、会いたくないに決まってる。

馬鹿だ、私。

ずっと、考えないようにしていながらも、どこかできっと会いに来てくれると、信じていた自分。

もう待ったりなどできるわけない。

込み上がる想いを、大きなため息で掃き出し、震える手で口元を覆う。

『…ごめん、ごめんなさい』

狭い部屋の中で、香ばしいコーヒー豆の香りに包まれながら、届くことのない謝罪を、小さくつぶやいた。
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