明日、君を好きになる
『すみません…お客様が、お疲れのようだったので、お嫌いでしたらそのまま置いておいてくださって結構ですので』
『…いや、いただくよ』

彼が、フッと微笑む。

『正直、甘いものが欲しいと思ってたからちょうど良かった。ありがとう』

初めて、正面から彼を見た気がした。

くしゃりとしたウエーブがかった髪に、整った顔立ち。

おそらく、世で言うイケメンの部類に入るのだろう。

少々疲れは見えるものの、その疲れた表情さえ、むしろかっこよく見えるのだから、イケメンは得している。

普通の乙女であれば、“キュン”となる瞬間なのかもしれないけれど、自分の身の程を知っている私には、そんなトキメキを感じることさえ、おこがましいことのように思えてしまい、平常心を保ちつつ心穏やかに応対。

『では、ごゆっくりどうぞ』

いつも通りの営業スマイルで一声かけてから、ちょうど雨宿りに入ってきたお客様の接客に向かう。

別に、気にしていた訳ではないけれど、接客の合間にカウンターの彼をチラリと覗くと、チョコレートを摘まんでは、嬉しそうに口にしているのが見えた。

よほど、チョコが好きだったのだろうか?

結局、彼が帰った後、トレイの上の小鉢に残されていたのは銀紙の包み紙だけで、中は空っぽだった。

…その日はそのまま、特に変わりなく時間は経過し、日中の忙しさもあって、朝の出来事などすっかり忘れてしまっていた。
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