明日、君を好きになる
相手が住む世界の違う人だとか、自分が恋愛には向いてないとか、フリーターで仕事を探している身だからとか、自分で理由をつけては、どこかで勝手に一線引いてしまってた。

少なくとも、人を好きになっちゃいけない時期なんてないのに、何を躊躇することがあったのだろう。

もっと早く自分の気持ちに素直になっていたら…なんて、今更”タラれば”なことばかりが頭を巡る。

小さなため息と共に、クウ…とお腹が鳴り、こんなセンチメンタルな気分でも、普通にお腹は空くことに、苦笑い。

ふと、あの時二人で行った、イタリアンレストランを思い出す。

あの日、小野崎さんの車で連れて行ってもらった、住宅街の中にある可愛らしいお店。

確か、ここから車で10分~15分程度だった気がする。

お店の名前は、忘れてしまったけれど、この辺りのタクシーの運転手なら知っているかもしれない。

自然と足が、タクシー乗り場へと向かう。

ダメ元で、ロータリーに並ぶタクシーに乗り込み、お店の概要を説明すると、案の定すんなりと該当しそうな、お店の名前が出た。

この辺りでは、味と雰囲気が良いと人気も高く、穴場ながら、一度行くとリピーターも多いことで有名とのこと。

『待ち合わせ?』

運転手に話しかけられ、『いえ、一人です』と正直に答える。

『やっぱり』
『?…やっぱり?』
『いえね、あの店、何故か一人で行く客も多くてね。噂によると、お一人様限定のフロアがあるとかないとか…』
『そう…なんですか?』

前回行った時には、全く気づかなかった。

最近は、女性でも一人で食事することが一つのブームになっているので、そういった”お一人様”に、ターゲットを絞ったお店があっても、なんら不思議ではない。

あの日、小野崎さんの車の助手席で見た景色をなぞりながら、目的地へ向かう。

もちろん、そこに小野崎さんがいるわけじゃない。

どうせ忘れなきゃいけないのなら、ほんの少しでもいい…彼を近くに感じたかった。
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