明日、君を好きになる
席は比較的ゆったり造られていて、それぞれが背の高い観葉植物で仕切られ、隣が気にならないようにセットされている様。

各スペースごとには、専用のAC電源が設けられ、上からのダウンライトが優しく手元を映してくれている。

まさに”お一人様限定”といった造りで、周りの客を見渡せば、皆思い思いに読書をしたり仕事をしたり、自由に過ごしていた。

ーーーなんか、落ち着くな…。

目の前の窓から外を眺めると、大きな庭園の中央にあるモミの木らしき大木がライトアップされ、存在感をアピール。

おそらくこちらも、来月のクリスマスに向け、徐々に華やかに装飾していくのだろう。

それでも、この時期に生い茂る鮮やかな緑の葉は、何の装飾を施していないのが却って荘厳で、美しくさえ感じた。

そういえば…と、思い出す。

あの夏の日、1階のあの窓からは、こんな風にゆっくり外を眺めることなんてできなかった。

柄にもなく、いつもと違う雰囲気の小野崎さんに、終始緊張しまくっていたっけ。

そんな自分とは対称的に、自然体で、余裕すら見せてた小野崎さん。

私のそれがバレないように、必死に自分を取り繕って、無理して大人の女性を演じてたっけ。

本当の私は、大人女子なんて程遠い…。

素の私を知ったら、小野崎さんはどう思っただろう?

こんな状況になってもまだ会いたくて、引きずって、こんなところまで来て…女々しいにもほどがある。

ーーーもう、今日で忘れなきゃ…ね。

窓から視線を戻すと、カウンターの右端に置いてある籐製の籠に気づく。

籠の中に入っているのは、A4の普通のノートのようで、何気なく手に取ると、シッカリ目の表紙に”フリーノート”と書いてある。
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