明日、君を好きになる
『…大事な人もたくさん傷つけた。当時付き合っていた恋人に、自分達のこれからどうするのか?って聞かれた時なんか、彼女の気持ちも考えずに、ひどく冷たくあしらった。実際、俺がこんな時に、よく結婚など考えられるなって思ってたんだ。…その時の、彼女の傷ついた顔は、今でも忘れられない。黙って立ち去った彼女を、追いかけることすらしてあげなかった』

当時を振り返り、ゆっくり瞬きをして『最低だろ?』と、自嘲するように笑みを浮かべると、視線を正面の夜景に戻す。

『自分のことで手いっぱいで、人を思いやる気持ちさえ忘れてた。それに気づいたのは、その何年か後に、前の職場の同僚から、彼女と付き合い始めたんだって報告を受けた時かな。彼は、俺と別れた後の彼女がどんなだったのか教えてくれて、自分が支えてあげたいんだって、頭を下げてきた。俺なんかに、下げる必要なんてないのにな。…第一、それまで必死に仕事に明け暮れてて、彼女のことなんてすっかり忘れていたくらいだったのに』

小野崎さんは『奴には感謝しきれない』と、小さくつぶやいた。

その視線の先には、横浜の観覧車が鮮やかな七色に変化し、美しい情景に花を添える。

話の内容とのちぐはぐさが、却って物悲しくさえ感じてしまう。

『恋人を作らないって決めたのも、その頃かもしれない。もう、気持ちだけで安易に付き合うほど若くはないし、相手の人生しょい込む覚悟でもなきゃ、作らない方が良い…ま、最も、恋人を作る余裕なんてなかったけどな』

そう言いながら悲しそうに笑う。

この数年間、どれだけ孤独で、もがき苦しんだのだろう?

それはきっと、戒めにも近い。

未だはっきりとは読み取れない横顔に、その苦悩を感じ、咄嗟に衝動にかられ、柵にかけている小野崎さんの左腕をギュッと掴んでしまう。

『…エリ?』

驚いた小野崎さんが、私を振り返る。

言葉を発したら、泣いてしまいそうで、黙ったまま想いを念じる。
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