明日、君を好きになる
小野崎さんは、それまでのこわばった表情を和らげると、フッと笑って、私の触れた手のひらに自分の右手を重ねる。

その手は温かく、尚更泣きそうになった。

『でも、いつだったか君に、仕事辞めたことを後悔してるのか?って聞かれて、後悔してないって答えたのは、嘘じゃない。やっぱり大変だけど、好きで始めた仕事は面白いし、やりがいも充分ある。…それに、あのままだったら気づけなかったことや、出会えなかった人だって、たくさんいるからね。渚さんやエリ…君にだって、こうして会えたこと、俺には無駄には思えない』

重ねた手のひらが、一層強く握られる。

『幻滅…したかな?』

少し不安な表情で、私の反応を伺うように、聞いてくる。

その瞳が、まるで捨てられた子犬のようで、少なくともいくつも年上の大人の男性には見えなくなり、自然に笑みがこぼれた。

『いえ、全然。むしろホッとしました。だって、いままで完璧すぎる小野崎さんしか見てなかったから、ずっと住む世界が違うんだなって…』
『異国の王子みたいな言い方だな』
『あ~そうですね、そんなイメージでしたよ。私のように平凡な町娘には、身分不相応的な…』
『何だよソレ』

互いに笑い合っていると、不意に公園内にまばらにいた人達が、ざわめき出した。
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