明日、君を好きになる
正直なところ、特段恋人を持たなくとも、幸い仕事柄、本業の仕事先やバーで知り合った子など、女性には事欠いたりはしなかった。

渚さんのおかげで面倒なことにもならないし、大抵はこちらが動かずとも、相手から何らかのアクションがあって、自分も適度に楽しめればそれでよかった。

そもそもこの時まで、君は俺に全く興味がなさそうだったね。

数か月もの間、毎朝のように顔を合わせていながらいつも挨拶程度で、あくまでも”店員と客”の関係を崩さない。

俺にとって、この店は特別な居場所だから、無関心でいてもらえるのはとてもありがたく心地よかったのだけど、いつからか俺は、そんな君と会話をする…何かきっかけを待っていたような気もする。

君が、渚さんの従姉妹だったことには驚いたけれど、他の女性にはない新鮮さがあって、俺はますます君に興味を持った。

あの日から、朝のほんの短い時間が、今まで以上に楽しみになった。

俺は毎日、君に一つだけ質問をしたね。

もちろん、君のことを知りたいという単純な気持ちからだったが、その質問に対し、君は毎回淡々と答えるだけで、全く会話が弾まない。

無論、君は当然仕事中であったし、会話を楽しむ必要はなかったのだけど、しばらくして、俺は自分の出す質問に対して、君の方から何か聞き返してきてくれるんじゃないかと、待っている自分に気が付いた。

自信があったわけじゃない。

ただ、あまりにも君のつれない態度に、少し寂しさを感じていたんだ。

それこそ、バーでうまく立ち回っている自分のように、こちらから会話を弾ませる努力をすれば良かったのかもしれないが、ここはバーでもない上に、君も俺の”客”じゃない。
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