明日、君を好きになる
そうして、不意に思いついた”男”の存在。

考えてみたら、左手の薬指に指輪こそしていないものの、恋人や想い人がいないとも限らなかった。

それならば、そっけない態度も腑に落ちる。

ついにしびれを切らした俺は、オフィス街がお盆休みを取っている最終日、人気のないカフェの時間帯を狙って、思い切ってストレートに聞いてみた。

君は俺の質問に、予想以上の反応を見せてくれたね。

しかも偶然にも、君が抱えている問題まで知ることができるなど、思ってもみなかったこと。

”恋人(想い人)がいるのか?”という質問の明確な答えは示されなかったが、君の態度から察することくらいは、容易にできた。

明らかにホッとしている自分がいたが、この時はまだ、そのことには気づかないフリをしていた。

何がそうさせるのかわからないが、俺はますます君に近づきたくなり、朝の短い時間だけでは、物足りなさを感じ始めた。

こんな気持ちは初めてで、この気持ちが何なのか自分でも知りたくなり、俺は久しぶりに渚さんに連絡をしてみることにしたんだ。

彼女が君とモーニングのシフトを替わってからは、昼間の時間帯にカフェに顔を出した時に少し会話をする程度で、後は、例のお願い事でトラブルが起きた時だけに連絡するくらいだったので、若干驚いたようだった。

特に用事がないのに連絡するなど、おそらく始めてだった俺は、少し妙だったのかもしれない。

さりげなく、ほんの少しだけ君の話を出した。

それだけで、何かを鋭く察したらしい彼女は、こちらが何も聞いていないにも関わらず、休日の君の予定をサラリと教えてくれた。

渚さんは相変わらず頭の回転が早く、言わずともこちらの意図は、どうやら見え見えの様子。

全く、凄い人だと感心する。
< 169 / 185 >

この作品をシェア

pagetop