明日、君を好きになる
それでも、この時の俺には、未だ特定の恋人を作る気は無かった。

”恋人”という存在が、今の自分の生活にどれだけ影響するのか想像したら、作らない方が相手にとっても、自分にとっても、賢明だと思っていたんだ。

そう思う一方で、君ともっと話してみたいと思う気持ちが、恋人に対するそれと似ていて、戸惑う自分がいたのも事実。

その戸惑いが何なのか、わからないままに迎えた、月曜日。

いつものようにお店に行くと、君ではなく、渚さんがいた。

俺はよほど落胆した顔をしたのだろうか?

久方ぶりに会った渚さんに『ちょっと恭介君、その顔、いくら何でも失礼じゃない?』と呆れられた。

聞けば、君は熱を出して寝込んでいるという。

昨日の今日で心配で仕方なかったが、特別な関係でもないのに、これ以上踏み込むことは躊躇われた。

渚さんは何かを察しているようだったが、俺が何も言わない以上、何も聞いては来ない。

こちらも表面上は、ポーカーフェイスを保つのがせいぜいだった。

翌日、見舞いに行った渚さんから、風邪は大事には至らず、直ぐ復帰すると聞いてホッとするも、何故か”この病はあなたのせいなんだから”と、復帰初日の帰りに、自宅まで送るように命じられる。

その理由はよくわからなかったが、こちらとしては、願ったり叶ったりだ。

君の自宅までの短いドライブだが、久しぶりに(といっても実質二日ぶりだが)会えると思うと、何故か浮足立った。

翌日の午後、君は俺の顔を見るなり、心底驚いていて、おそらく渚さんが何も言わなかっただろうことは、すぐわかった。

君は俺の車に乗ることを少し躊躇っていたけれど、ここは少し強引に攻めさせてもらった。

我ながらどうかしてる。

今思えば、たった二日間の会えなかった分を取り返すように、君に会いたかったのかもしれない。
< 171 / 185 >

この作品をシェア

pagetop