明日、君を好きになる

『あの…小野崎さん?』
『お、苗字で来たね』
『私、名前はちょっと抵抗あるので、苗字の…“進藤”で、お願いします』
『ん?進藤?』

途端に、驚いたように口にする。

『君、もしかして、渚さんの?』
『はい、従姉妹になります』
『そうなんだ……』

彼は、私がここに来る前からの常連客なのだろう。

渚ちゃんのことを知っていても、なんらおかしくはない。

ひとしきり、まじまじと見られるも、渚ちゃんと似ているところなど、一つもないのだから、探しても無駄というもの。

次の瞬間、彼…小野崎さんはにやりと笑い、続ける。

『なるほど…渚さんと同じ苗字なら仕方ない。尚のこと紛らわしいから、やっぱり名前で呼ばせてもらうよ』
『え?』
『あ~そうだな…大人の女性に、さすがに“ちゃん付け”は無いよね?』
『えっと…小野崎さん?』
『エリコか…いや呼びづらいから、短く「エリ」…でいいかな』

その時、後ろで、入口のドアが開いたときに鳴るベルの音が、聞こえた。

『エリ、ほら、お客さんみたいだよ?』
『あ…』

後ろを振り向き、店内入り口にいる、お客様を確認すると、目の前の小野崎さんに『し、失礼します』と言い残し、慌てて、そちらに向かう。

もう後ろを振り向かなくても、声を殺しながら笑っている小野崎さんの姿が、手に取るように分かった。

何も変わらない日常に、突然起こった変化。

久しぶりに、弾ける心臓の高鳴り。

…少しずつ、何かが動き始めているのかもしれなかった。
< 18 / 185 >

この作品をシェア

pagetop