明日、君を好きになる
家賃はいらないと譲らない彼に、その代わり、彼の仕事中の家事全般を任せてもらうことで、契約は成立。

しかもコソコソしたくはないからと、早々に私の親への交際の報告と、同居する旨を伝えに行くも、意外にもアッサリ認められ、その陰に渚ちゃんとの連携が見え隠れしているあたりは、やっぱり抜かりがない。

私が淹れた、モーニングコーヒーを口にしながら、大げさにため息をつく。

『真面目すぎるな君は…』
『少なくとも、私が教師になるまでは、節度を守らないと』
『それはそうだけど、実際のところ、ほとんど毎日一緒に寝てるし』
『そ、それは、恭介さんが、勝手に入ってくるんでしょ!あ、そうそう、あれは恭介さんが部屋に入って来たのがわかるセンサーにもなってるんだから、絶対外せません』

恭介さんは、やれやれともう一度小さなため息をつきながら、プレート上のパンに手を伸ばす。

…と、視線が、テーブル上にあった、小鉢の桜に注がれた。

『ん?…桜?』
『うん。それ、可愛いでしょう?お店の前に活けてあったのを、少しだけもらってきたの』

こちらの声が聞こえているのか、返事なく見つめたままフッと笑う。

『何?』
『いや…あれから1年が経ったんだな…』
『…あれから?』

自分用の温かいミルクティを手に、恭介さんの向かいの席に座る。

彼に会ったのは、確か渚ちゃんから、モーニングのシフトを替わった時だから、5月の後半だろうか?

それなら、”まだ1年は経ってないはずでは…?”と、思っていると、恭介さんは『君は覚えていないだろうけど…』と、前置きしながら話し出す。
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