明日、君を好きになる
言いながら、なぜこんなことを、ただの常連客に話しているのだろうか?と、頭をよぎったけれど、いままで誰にも聞けなかった答えが聞けそうで、自分を制御することができない。

『後悔してるの?エリ』
『…いえ、全く』
『それなら、君の選択は正しかった…と、俺は断言しても良い』

静かに話すその真っ直ぐな眼差しに、私が唐突にした質問に、真剣に答えてくれているのが伝わってくる。

それと同時に、さっきから少しずつ高まる、良く分からない胸の鼓動。

『エリ、君の人生は君だけのものだ。後悔してるならともかく、そうじゃないなら辞める時期も君の自由。むしろ公務員なんて、早く辞めないと打算で辞められなくなるぞ』

確かに、あのタイミングを逃したら、ズルズル辞められなかった気がする。

それ以前に、小野崎さんの言葉で、自分自身が仕事を辞めたことに対して、全く後悔していないことを、思い出した。

あまりにも周りから否定され、自分の出した選択に、自信が無くなっていたのかもしれない。

何か、胸のつかえがスッと消えていくような感覚と、心なしか気持ちが軽くなった気がする。

『って、俺、何偉そうに言ってんだろうな?』

そう言いながら、少し照れたように、いつもの笑顔に戻る。

『いえ、ありがとうございます…なんか、少しホッとしました』
『そう?それなら、良かった』

そう言うと、今度は笑みを浮かべたまま、もう一度ジッと見つめられる。

”ドキッ”
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