明日、君を好きになる
変わらない日常

『エリィ~遅れてごめんねぇ』

午前9時半過ぎ。

大きめのサングラスをクイッとカチューシャのように頭にかけながら、この店のオーナーである、“進藤渚”が、従業員用の裏口から、颯爽と入ってくる。

スラリとした長身に、モデル並みのスタイルの良さ。

健康的に整った顔立ちは、“化粧映えしないから”と、ほとんどスッピンで、この美貌。

これで30半ばというのだから、恐ろしい。

『渚ちゃん、30分遅刻』
『んっもう、固いこと言わないの!あ、岡田君、もう来てくれてるの?助かるぅ』

渚ちゃんに、お礼を言われ、キッチン担当の岡田君は、頬を赤らめる。

本当は10時から出勤予定の岡田君が、少し早目に来てくれたおかげで助かったけれど、これからランチタイムの仕込みもあり、ちょっぴりヒヤヒヤだった。

私、進藤江梨子は、訳あって、渚ちゃんのお店であるこのカフェで、働かせてもらっている、28歳のフリーター。

彼女は、私の父方の兄弟の子供、つまりは、従姉妹関係になる。

小さい頃から、家も近くて、一緒に育った姉妹みたいに、気心が知れている。

だからもちろん、彼女の性格も、充分承知していた。

一見抜けているように見えて、何でも器用にソツなくこなす。
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