明日、君を好きになる
『あ~、もっと話したいけど、とりあえず仕事しなきゃだわ』
『私も、フロアに戻るよ』

オーナーの苦労を見せる美しい従姉妹は、休憩室を出て裏口に向かい、私はフロアに向かうために、通路を右に出る。

『エリィ』
『ん?』

振り向くと、裏口のドアの前で、きりりとした立ち姿で、こちらを向く渚ちゃん。

逆光で、渚ちゃんの表情は良く見えないけれど、美しいシルエットで柔らかな笑みを浮かべているのが、その声のトーンでわかる。

『言っとくけど、恭介君、今、彼女はいないからね』
『…なんで、わかるのよ?』
『何でもよ。これは、間違いないはずだから安心して』

そういうと、ちょうど裏口のドアがノックされ、業者がこちら側に回って来たようだ。

何が安心なのかさっぱりわからないけれど、取り急ぎこちらも、先程のミスを取り戻すべきフロアへ向かう。

別に、小野崎さんに彼女がいてもいなくても、自分には関係ないこと。

そう思う一方で、心のどこかで少しだけホッとしている自分がいて、また訳が分からなくなる。

考えれば考えるほど、止まっているはずの自分の気持ちが動き出しそうになるのが怖かった。

とりあえず、その気持ちが表に出て来ないように、しばし仕事に集中して、何も考えないようにすることにした。
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