明日、君を好きになる

本当は、聞きたいことがたくさんあった。

渚ちゃんとは、どういう関係なの？
“お世話になってる”って、どういう意味？

気にしていないと言いながらも、頭の中では、さっきの会話が心を乱す。

偶然にも訪れたチャンスに、それを素直に口に出来ない自分が、もどかしい。

窓の外に視線を向け、流れ去る風景を目で追い続ける。

車内に流れる音楽は、洋楽のヒットチャートで、曲名は分からないけれど、聞いたことのある曲。

お互いその曲を聞き入るようにしばらく沈黙が続き、その間に幾つかの交差点を通り過ぎて、曲の終わり頃には、大通りを横道に折れ、閑静な住宅街に入っていく。

『もう、店まですぐだから』

不意に声をかけられ、反射的に運転席を見ると、眼鏡こそ掛けているものの、いつもの悪戯そうな笑みを浮かべて、こちらを見る小野崎さん。

『着いたら、話すよ』
『？』
『エリに隠すつもりはないからね。まぁ、先ずは腹減ったし、飯喰おう』

言われた内容よりも、小野崎さんって“ご飯”ではなく、“飯”って言うのね？などと、関係ないところに、興味を惹かれる。

何だか、今日は変な感じだ。

異世界の住民だと思っていた人が、凄く身近に感じてしまう。

いつものお店の、あの朝の空間と違うから？

それとも、彼があのバーテンダーの黒い制服を着ていないから、なのだろうか？

今日出逢った瞬間から、ずっと違和感が否めない。

今一緒にいるこの人は、本当にあの小野崎さんなの？

妙に胸がざわついて、落ち着かないのは一体…？