明日、君を好きになる
“先に”と指定していた飲み物が運ばれてきて、一旦会話が途切れ、店員が立ち去ると、片方の手を顎に充て、緑あふれた中庭を見ながら、少し思い出すように話し始める。

『渚さんと知り合ったのは、今の仕事を始めた時だから、もう6年も前かな?』
『…今の仕事?』
『実は俺も、転職組なんだ』

視線を外から戻し微笑むと、先程運ばれてきたアイスコーヒーに口を付ける。

『前の仕事は、特に不満は無かったんだけど、君と同じように、何か違うって思いながら仕事を続けるのかしんどくなって…というより、俺の場合、今の仕事がどうしてもやりたくなってしまってね。周りの反対を無視して、アッサリ辞めてしまったんだ』

黙って聞きつつ、いつぞやの話は、自身の経験から出た言葉でもあったことを知る。

『…自慢じゃないけど、前の仕事は、名のある大手のメーカーでね。実は、成績も良かったし、これでも結構、将来を有望視されてたんだ。だから、突然辞めるって言った時は、上司やら同僚やら、もちろん親からも散々いろいろ言われたよ…ま、その辺は君も察しがつくだろう?』

不意に問われ『…そうですね』と頷いた。

女性の私でも、いまだに言われているのだから、小野崎さんの当時の状況なら、おそらく私以上だったのだろうと、容易に想像できる。

『辞めてしばらくして、割と早く今の仕事を始めたんだけど…当然、最初からそんなにうまくいくわけがない。まあ、自分も20代半ばだったしね、考えが甘かったといえば、それまでなんだけど…。そんな時、あの店に偶然立ち寄ったんだ』
『渚ちゃんのお店ですね』

小野崎さんは、そうだと頷く。
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