明日、君を好きになる
『バーテンは、“副業”…みたいなもんかな?バイトにしては、結構真面目にやってるし。最初は収入も不安定だったから、本業が軌道に乗るまでの繋ぎで始めたんだけど、今はもう、このサイクルが日常になっちゃって…って、もっとホント言うと、俺目当ての客が結構いるからって、店のオーナーがやめさせてくれないんだけど』

本当か冗談なのか(多分本当なのだろうけど)、取り分けたサラダを食べながら、そう話す。

プログラマーが本業で、バーテンダーは副業。

これが、小野崎さんの本当の職業。

そう言われて、改めて小野崎さんを見ると、それらしく見えてくるから不思議なものだ。

『ソレっぽく見えてきたかな?』
『騙されてたんですね?私』
『騙すなんて、人聞き悪い。これだってエリの言うところの立派な個人情報だからね。簡単に話す訳にはいかないさ…だろ?』

少し咎めるように睨むと、面白そうに、最もらしい言い訳を返してくる。

別に彼の本業が何であろうと関係ないのだけれど、なんとなく腑に落ちない。

外見で、人を判断してはいけないことは充分わかっているはずなのに、すっかり騙されていたなんて。

『そのこと、渚ちゃんは…』
『もちろん知ってるよ…というより、バーテンを副業でやる上でちょっとした問題があってね、実は今も、それを彼女に協力してもらってるし』

『そういった意味でも、世話になってるんだ』…と、小野崎さん。

次から次へと明かされる真実に、つい自分の食事の手が止まっていたことに気づく。

知りたいことは、まだたくさんあった。

自分もサラダを口にしながら、その先を促すように、『協力って…?』と疑問を口にしてみた。
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