明日、君を好きになる

『あのっそれって、どういう意味ですか?』
『実はいつだったか、お客さんの中に、俺が毎朝、渚さんのお店に寄ってることを知った子がいてね。どうやら彼女のことを、恋人だと勘違いしたらしい。もちろん、すぐ否定するつもりだったんだけど、その子が「あの人なら諦めもつきます」なんて言うから、あれ?そういう手も有りかな?ってね』
『…有りかな?って…』

確かに、相手の女性にしたら、渚ちゃんのような女性が恋人なら、太刀打ち不可能と諦めざる得ないだろうとは思うけど…。

畳み掛けるような私の質問に、小野崎さんは一旦食べるのをやめてフォークを置くと、私に向き直り答えてくれた。

『年齢的にも、特定の恋人がいる方が落ち着いて見られるし、断る正当な理由にもなるしね。ところが、さっきも言ったように、俺は今、特定の恋人を作る気はないから、誰かにその役を頼むしかない。しかも、渚さんなら、外見も人物的にも申し分ないからね。ダメ元で、彼女に事情を話してお願いしてみたら、意外とアッサリOKしてくれたんだ』
『渚ちゃんが?』
『ああ』
『偽りの恋人役を?』
『そう…ただし、条件は出されたけどね』
『条件…』
『一つは、毎朝、朝食を食べに来ること。もう一つは、その子がもし、渚さんに会いに来たときは、彼女から本当のことを話すこと』

“…あッ!?”

不意に、時々店先で、渚ちゃんを名指しで呼び出す女性が来たことを、思い出した。

アレって、こういうことだったんだ…と、今更ながらに気づく。
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