明日、君を好きになる
『恋煩い…だったりしてね』

カウンターの内側で手際よく料理しながら、渚ちゃんが面白そうにつぶやいた。

『昨日、恭介君と、デートしたんでしょう?』
『デートじゃないよ…食事しただけだし』

咄嗟に、気持ちとは裏腹に、誤魔化してしまう。

『それ立派なデートじゃない。恭介君、今日エリィに会えなかったの、凄く残念がってたわよ』
『えっ、渚ちゃん、小野崎さんに会ったの!?』
『あら、誰かさんの代わりに、久しぶりに早起きしてオープンやったの、誰だと思う?』
『あ』

そうだった。

渚ちゃんのお店のアルバイトは、学生さんがほとんどだし、考えてみたら、急きょ早朝から入れる子なんて一人もいない。

『…ごめん』
『フフ…冗談よ。いつも、甘えてるのはこっちの方なんだから、気にしないで。それより、昨日どうだったのよ?』
『…どうって』
『恭介君から、聞いたんでしょう?いろいろ』

問われて、渚ちゃんがその“いろいろ”を黙っていたことを思い出し、『教えてくれても良かったのに』と、攻めるように言うと、『え~私から言ったら、つまんないじゃない』と、全く悪びれずに言い放つ。

この人は…。

小野崎さんには、ああ言ったけれど、本当は個人情報うんぬんより、単純に面白がってるだけなのかもしれない。
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