明日、君を好きになる
『どこまで聞いたのかな?』
『渚ちゃんが偽りの恋人だって話も聞いた』
『あ~それね。ふふっ…驚いたでしょう?』
『驚くも何も、良く引き受けたなって…自分だってリスクあるのに』
『私は良いのよ、そういうの、もう作る気ないから』

微笑みながら、さらりと、凄いことを断言する。

こんな時に、彼女の信念の強さが伝わってくるようだった。

『恭介君、あの頃本当に悩んでたからね。本業の仕事の方にも影響出てきたら困るって、真剣に相談されて、断れなかったのよ』

そう言いつつも『それに、嘘でもあんなイケメンの年下彼氏いるって、ちょっと良いでしょ?』と、誇らしげにウインク。

『そのわりには、早々にバラして、みんな渚ちゃんの信者にしてるでしょ?』
『やだ、よく見てるのね、エリィ』

私が薄々感づいていたことを話せば、少し驚き、

『でもね、だいたいうちのお店に私に会いに来る子は、バーテンダーをやってる恭介君の外見に惹かれてるだけだから、本当のことを話せばすぐ目が覚めるのよ。…そして、その目覚めの一杯に、うちの絶品コーヒーを飲ますの』

美しい顔で『これでイチコロよ』と、にやり。

呆れた確信犯だった。

『それに…』と、今度は少し考えて続ける。

『もっと真剣に好きになっちゃった子には、恭介君、自分でちゃんと対応してるみたいだしね』
『ふぅん…そうなんだ』

何でもない風に返事をしながら、内心は穏やかではなかった。

小野崎さんに惹かれる子の中には、当然うわべだけじゃない彼の内面にも惹かれてる子がいたって、おかしくはない。
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