明日、君を好きになる
でもきっと、彼はその想いには答えないのだろう。

だって、小野崎さんは…

『エリィは?』
『…ん?』
『エリィこそ、本当の恭介君に触れて、惹かれてるんじゃないの?』
『……』

キッチンのカウンター越しに静かに問われて、返答に困り黙ってしまった。

その沈黙を、答えと受け取ったのか『いよいよ自覚したわね』と、独りごちる渚ちゃん。

『…いい人だとは、思う』
『うんうん』
『でも…』
『?…でも?』
『でも、渚ちゃんが期待しているようなことは、何も始まらないよ』

キッパリと言い切った私の言葉がひっかかったのか、一瞬料理の手を止めて、こちらに向き直る。

『何でよ?まだ何も始まってないんだから、わからないじゃない?』
『ううん、小野崎さん、言ってたから…“今は恋人を作るつもりはない”って…』

リビングのソファの上で膝を抱え、大きめのクッションをギュッと抱きしめる。

『それに、そのつもりで、渚ちゃんに恋人役をお願いしてまで、特定の女性と関わらないようにしてるは知ってるでしょう?』

渚ちゃんは小さくため息を吐き、『そう…恭介君、そんなこと言ったんだ』とつぶやくと、何やら煮込んでいたらしい鍋の火を止めて、ミニキッチンからこちら側に回り、私の右隣に腰掛ける。

そして、“本当は本人が何も言って無いなら、ちょっぴりルール違反かもしれないけど…”と、前置きをしてから、おもむろに口を開いた。
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