明日、君を好きになる
渚ちゃんの口から、明らかになる元カノの存在に、知りたくないという感情とは裏腹に、心の奥深くにある探求心が、口を次いで出てしまう。

『…別れは、彼女から?』
『別れ話っていうより、ある時彼女の方から、“私と結婚する気あるの?”って聞かれたって、言ってたかな』

ドキリとした。

そんな直球でストレートなセリフ、私だったら、それなりの確信や自信がないと言えない。

彼女には、それだけの自信があったということなのだろうか?

『その質問に、小野崎さんはなんて…』
『それがね、バカ正直に、“今はそういう気持ちは無い”って言ったらしい』
『え…それだけ?待っててほしいとか?もう少し時間が欲しいとか…』
『言わなかったみたいね。実際、無職に近くなってしまったわけだし、新しい仕事がうまく回るまで、彼女をどれだけ待たせるのか…恭介君の側からすれば、1年か10年か…もっと先かもしれない約束する方が、無責任だと思ったのかもしれないけど…』

渚ちゃんの話を聞きながら、小野崎さんのことより、その彼女の気持ちは少し分かる気がした。

彼女は、きっと小野崎さんの気持ちを確かめたかっただけ。

曖昧でも、ずっと先の約束でも良いから、きっと確かな”言葉”が欲しかったんだ。

『まぁ結局、彼女はその場でたった一言「分かった」とだけ言って、それっきりだったらしいのだけどね』

渚ちゃんの話を聞いただけだけれど、おそらく、互いに想い合っていたのに、ちょっとしたすれ違いで別れてしまった二人。

小野崎さんが、恋人を作る気が無いのは、やっぱり…。

『…まだ、その人(元彼女)のことが、忘れられないのかな…』

そうつぶやくと、隣に座っていた渚ちゃんが、何故か思いのほか強く『私は違うと思うよ、エリィ』と言い放つ。

まるで“断言しても良い”と言うように。
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