明日、君を好きになる
『どうしてそう思うの?』
『いつだったか、恭介君が言ってたのよ。その頃の…いい加減な気持ちで彼女を傷つけたこと、すごく後悔してるって。だから、次に出逢った子とは、中途半端な気持ちで付き合えないってね。仕事的にも、男としても、自分で納得できるようになってから、だって』

渚ちゃんは、もう一度私の目をみて続ける。

『“今は恋人を作るつもりはない”っていうのは、彼自身がまだ、今の自分に納得できてないってことじゃないかな?…と、私は思うけど?』

不思議なことに、否定が出来なかった。

前の彼女が忘れられないということよりも、渚ちゃんの言う予想が、彼らしい気がしてしまう。

…もっとも、そうであってほしいという、願望もあるのかもしれないけれど…。

『エリィ』

渚ちゃんが、その美しい顔を私に向け、いつになく真剣な眼差しで続ける。

『私はね、恭介君、今葛藤してる気がするのよ』
『葛藤…?』
『エリィを、本気で好きになって良いのかどうか』
『な、何、言ってんの?そんなこと、ある訳ないでしょ』

渚ちゃんがまた、妙に確信を得たように言うのですぐに否定するも、彼女は尚も真剣な眼差しで持論を述べる。

『この前、恭介君が毎朝エリィに質問してくるって言ってたでしょう?あれ聞いて、ちょっと驚いたのよ。だって、彼この6年もの間、ホントにストイックに仕事に打ち込んでて、女性に全く興味示さなかったから。あれだけの容姿と、女性と知り合う機会あるのによ?』
『…それは』
『エリィ、目を逸らさないで、自分の気持ちにも素直にならないと」
『…』
『大事な人が目の前にいるかもしれないのに、気付かないふりをしないで。見失ってからじゃ遅いのよ』

何故か、最後は彼女自身に言い聞かせているように、聞こえた。
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