明日、君を好きになる
渚ちゃんの大きな瞳が、一瞬潤いに満ちた気がしたのも、気のせいではない。
姉妹のように育った従姉妹でありながら、彼女のそういった類の話は一度も聞いたことが無かったけれど、過去に何か後悔するようなことがあったのかもしれない。
~♪
キッチンのカウンターに置いてあった彼女のスマホが、メッセージの着信を知らせる。
渚ちゃんが、スクッと立ち上がり手に取ると、そのメッセージを確認して『ほらね』と大きくため息を吐き、さっきの憂いを帯びた表情は封印され、いつもの太陽のような笑顔で振り返った。
『誰?』
『噂の当人』
“ドキッ”
『読むわよ、【江梨子さんの体調はどうですか?熱、下がりましたか?彼女、頑張りすぎているようなので、無理をし過ぎないように、お伝えください】ですって』
メッセージを読み上げると、『全く、連絡先くらい交換しときなさいよ』と、呆れたように笑う。
『渚ちゃん…私』
『うん、先ずは体調整えよう!考えるのはその後ね』
そういうと、渚ちゃんはそのままキッチンに向かい、途中だった料理を再開させる。
自分のことより、他人の心配ばかりする優しい従姉妹に感謝しつつ、いい加減自分の気持ちと、ちゃんと向き合わなければと思った。
確かに今、自分の進む道を見つけることも大事。
でも、不意に芽生えた彼に対するこの気持ちも、決して無視してはいけないのだと思う。
私は、小野崎さんに惹かれている。
その事実は、今やもう、消えようのないものなのだから。
『さぁしっかり食べるのよ!エリィ』
渚ちゃんが作ってくれたのは、“体が弱っている時こそ、スタミナつけなくちゃ”と、先日、渚ちゃんの弟の海(カイ)ちゃんの彼女が家に来た時に作って好評だったという、キムチ鍋。
真夏に、しかも病み上がりにどうかとも思ったけれど、それは意外にも美味しく、二人で汗をかきながら、ぺろりと完食した。
渚ちゃんが帰る前に、もう一度熱を測ったけれど、やっぱり熱は無く、明日から出れると言ったのだけれど、オーナーである渚ちゃんに大事を取ってもう一日休むように言われ、結局明後日からバイトを復帰することにした。