明日、君を好きになる
『…あの、小野崎さん?』
『ああ、ごめん…ククッ…えっと、質問の答えだよね…って何だっけ?』

ひとしきり笑うと、こちらをちらりと見て、聞いてきた。

何だか馬鹿にされているようで、ちょっとムッとしてしまう。

『もう良いです』
『拗ねるなよ、エリ』

ハンドルを握っていない左手がゆっくり伸びて、私の頬をかすめる。

『な!』

ドキッ

咄嗟に掌で、彼が触れた自分の頬を触り、その手から逃げるように窓際に身を寄せる。

『君って、年相応な大人女子かと思えば、時々発想が幼いとこあるよな?』

面白そうにそう言い、私に触れた手を戻し両手でステアリングを持つと、運転に集中するように、まっすぐ前を見据えたまま続ける。

『ど、どういう意味ですか?』
『そんなわけないだろ?だいたい、何年経ってると思ってんだ。別れてから5年間引きずってるとか…さすがに怖すぎだろ』
『…じゃ、なんで、式に参加しないんですか』

その質問には、少し考えながら、口を開く。

『俺と彼女が付き合ってたことは、昔の職場の人間ならみんな知ってる。結構つきあってた期間が長かったからね。…だから、当事者の二人が良くても、さすがに周りは気遣うだろうし、あんまり気分いいもんじゃないだろう?』

確かに、言われてみれば、そうかもしれない。

もし同じ状況だったら…と、考えたら、私だって行かない選択肢を選ぶかもしれなかった。
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