明日、君を好きになる

『あら、誰かと思ったら…』

弟との玄関先の会話を聞きつけて、リビングから母が顔を出す。

数か月ぶりの実家で、少々バツが悪く、相手は自分の親だというのに、毎日カフェで見せる”作り笑顔”で声をかけた。

『えっと…ご無沙汰してます…』
『何がご無沙汰よ。他人行儀なこと言わないで、さっさと上がんなさい』

いつも通り、変に気遣うこともなく、普通に応対してくれる母に、胸をなでおろす。

靴を脱ぎ、久しぶりに、掃除の行き届いた実家の板張りの廊下に上がる。

『お父さんは?』
『リビングにいるわよ…それより江梨子、今日は夕飯、食べてくでしょう?』
『あ~うん、できれば』
『先に言っておくけど、和樹もいないし、お父さんと二人だから、大したもの出ないわよ』
『全然いいよ、あるもので』

”前もって連絡くれたら良かったのに…”と、ブツブツ言いながらも、心なしか嬉しそうにキッチンに向かう母。

心配をかけているのだと、自覚しているだけに、申し訳なさでいっぱいになりつつも、久しぶりの母の手料理に、期待が膨らむ。
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