明日、君を好きになる
『珍しいな』

リビングに入ると、夕刊を観ていた父が、私の姿を見るなり、ポツリと一言。

日頃から趣味のゴルフと、ウォーキングで身体を鍛えている父。

薄っすら白髪が混じる頭髪は、多少年齢を感じさせるものの、あと数年で定年には全く見えない。

さっきの母親同様、『ご無沙汰しました』と、冗談めかして挨拶すると、『本当だな』と苦笑。

しばらく会わなかったから、もっとギクシャクしてしまうのだろうかと心配したけれど、結局、家族の距離間はいつもと変わらず、顔を合わせれば、一瞬で”親子”になる。

『さっき、玄関で和樹に会ったけど…』
『そういや、友達と花火観に行くって言ってたな…まあ、おおかた女だろうが』

父にも察しが、ついてるらしかった。

『来月から一人暮らしするんだってね』
『ああ、らしいな』
『あの子、ちゃんとやっていけるのかな?』
『さぁな…もう親が心配する歳でもないだろう』

確かに、26歳といえば、立派な大人。

それに、和樹は一見チャランポランに見えて、人づきあいも上手く、それなりに仕事もソツなくこなしているのだろう。

よく考えてみたら、今まで親に心配をかけているのは、私の方が多いかもしれなかった。
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