明日、君を好きになる

”大したものは出ない”と、言ってたのに、夕食に出された料理は、品数も多く、偶然なのか、私が久しぶりに食べたいと思っていたものばかり。

『美味しい!』
『大げさね。昔から、いつも食べてたじゃない』
『いや、ホント、これこんなに美味しかったっけ?』
『フフ…江梨子もお世辞言うようになったわね』

照れくさそうに笑いながら、ご飯をよそってくれる。

子供の頃から両親共にフルタイムで働いていたけれど、どんなに忙しくても、食事だけは決して手抜きをしなかった母。

いつも手作りにこだわって、スーパーで売ってるお惣菜がテーブルに出ることは、記憶の中には一度だって無い。

それは、母なりのプライドだったのかもしれないと、今はわかる気がする。

食事も進み、母がお茶を入れ始めた頃、意を決して今日ここにきた一番の目的を果たすべく、話を切り出してみた。

『あのぅ…ちょっと、二人とも、いいかな?』

私が居住まいを正してそう言うと、二人とも怪訝な顔を見合わせる。

『何だ、改まって』
『うん…あのね、私も、いつまでもこのまま渚ちゃんのお店でお世話になるわけにもいかないし、ちょっと先のこと、真剣に考えてみたんだ…』
『ほう…いよいよ始動って訳だな』

父が、母が淹れてくれたお茶に手を伸ばしながら言う。

『うん、実は…』

一呼吸して、自分が今考えていることを、初めて声に出した。
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