明日、君を好きになる
『来年度、私、教員の採用試験受けようと思って』
瞬間、二人の手が止まる。
母は、何かを言いたそうに、父の顔を見た。
夫婦だから互いに気持ちがわかるのだろうか、父がその気持ちを汲んだようにうなずき、湯飲みを置くと、こちらに向き直る。
『江梨子、お前にずっと言おうと思っていたんだが…』
父が徐に口を開いた。
『別に、公務員にこだわる必要はないんだぞ…和樹もお前も、自由に仕事を選んでいいんだ』
『そうよ、私達やお爺ちゃん達がずっと公の仕事に就いてたって、あなた達が気にする必要はないの』
職場では管理職だという、しっかり者の母まで、申し訳なさそうに話す。
いつになく真剣な顔つきで、二人して代わる代わる諭すように続ける。
『お前が、前の仕事を辞めた時、母さんと話していたんだ。お前にも和樹にも、そんなつもりはなかったんだが、いつの間にかプレッシャーをかけていたのかもしれない…ってな』
『そうね、今は女性も結婚したら仕事を辞める、なんて時代じゃないもの。この先、ずっと続けるなら、自分のやりたい仕事をしていいのよ。何も公務員にこだわらなくても…』