明日、君を好きになる
あの頃はまだ幼すぎて、自信のないことにチャレンジするより、無意識にどこかで、言い訳の利く楽な道を選んでた。

後悔しているわけじゃない。

ただ、ずっと何か違うと思いながら仕事を続けることの、答えが出なかった。

遠回りはしたけれど、ここにたどり着けたのなら、無意味な時間ではなかったはずだ。

父も母も私の話を黙って聞き、しばらく続いた沈黙の後、父が小さく息を吐きだし、真剣な眼差しでこちらを見る。

『で、教師もある種の公務員だが…?お前の言うさっきの理論でいくと、うまくいかなくとも言い訳もできるぞ』
『ううん。もちろん、これは自分で望んだものだから、もし望み通りになれたとして、万が一ダメでも、言い訳はできないって思ってる』
『バカ、教職に万が一などあってたまるか。人を育てる聖職だぞ』
『うん、肝に銘じてる』

確かに、実際、直に他人の人生に係わる職務に、怖さもある。

それでも、チャレンジしたいと…いや、だからこそ、そこに強いやりがいを感じて、惹かれたのかもしれない。

『そうね、江梨子には合っているのかもしれないわね。もうこの数年で、いろんな経験をして、それはあなたの糧になってるもの。そういうのって、先生って職業には必要な素質じゃない?』
『そうだな、人にものを教えるのに、挫折も味わってないじゃお話にならない』
『でも重圧のかかる仕事よ、わかってるのね?』

母に諭すように言われ、頷きつつ答える。

『もちろん、わかってる』
『そう…それなら、お母さんは応援するわ』

父も母も、共に『頑張ってみなさい』と言ってくれた。
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