明日、君を好きになる
胸の奥の小さな痛みを無視しつつ、さすがにもう心を惑わすことは言わないだろうと、踵を返し仕事に戻ろうと背を向けると、その背に向けて放たれた言葉が、私の足を止めた。

『じゃ、その公言、撤回するよ』
『はい?』

振り返ると、小野崎さんは一旦眼を閉じ、ゆっくり瞬きをすると次の瞬間、もうさっきのように笑ってはいなかった。

『その先も考えた上で、誘ってる…って言ったら?』

ドキッ

…真っすぐな視線で、いつになく真剣な声音で誘われる。

『ま、真顔で冗談言わないでくださいよ』
『俺、結構本気なんだけど』

小野崎さんは、ブレることなく、私を見つめたまま続ける。

何か答えようにも、その先の言葉が出てこない。

折しも、店内に流れるハワイアンミュージックの曲が終わり、次の曲までの間奏時間。

外の雨音より、上空で回るシーリングファンの音が大きく感じる。

『エリ、俺は…』

小野崎さんが無音の空間を裂くように口を開いた瞬間、入り口の扉が開くと同時に、店内にお客様の来店を知らせる、鈴の音が響く。

『し…失礼します』

そう告げると、目の前の小野崎さんから逃げるように、今入ってきた来店者の対応に向かう。
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