明日、君を好きになる
エアコンの効いている店内に戻ると、小雨とはいえ少し濡れてしまったからか、身体がヒンヤリとした。

また体調を崩してはいけないと、入り口に準備中の札を下げると、急いで制服の上だけ着替えてフロアに戻り、小野崎さんの座っていたカウンターに向かう。

そこには、飲みかけのコーヒーカップと手つかずのモーニング。

それとカップソーサーの下に、きちんと折りたたまれた千円札が一枚、はさんで置かれていた。

『お金なんていらないのに…』

つぶやいて、そのお札に触れ、それをそこに置いた人物が、今しがたこの店で放ったセリフを思い起こす。

恋人を作らないという公言を取り消すと言った小野崎さん。

その先も考えてる…って、どういう意味だったのだろう?

自分に都合の良いように解釈しては、そんなことあるわけないと否定する。

“今の自分にまだ納得できていない”と言ってたのは、つい先日の話だ。

身の程は充分わきまえていたはずなのに、それでも一瞬、何かを期待していた自分。

先ほどの女性に、それを見透かされた気がして、無性にあの場から逃げ出したかった。

目標が定まった今、迷ってはダメだ。

今は、自分のことだけを考えなければ。

そう思う気持ちと裏腹に、彼女のように小野崎さんのもっと近くに行きたいと願ってしまう自分がいて、どうにも切なくなり、込み上げてくる想いをグッとこらえた。
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