春が来たら、桜の花びら降らせてね
「ふう……」
木陰が多いからか、いくらか日差しは優しいけれど、纏う空気はむんむんとしており、うっすらと汗ばむ。
パタパタと手で顔を仰いでいると、「ねぇきみ」と見知らぬ男性に声をかけられた。
「ひとりで犬の散歩?」
「……あ……っ!」
突然声を掛けられて、体が強張る。
誰だろうこの人、でも、なんか言わないと……。
突然冷水を浴びたかのように、立ち尽くした。
その間も声は出ず、しきりに膝が震える。
「っ……ぅ、……っ」
どうしよう、声が出ない。
言わなきゃと思えば思うほど、喉がつかえてしまう。
「それならさ、俺とお喋りしながら歩かない?」
「ワンッ、ワンッ!」
人懐っこいベリーが珍しく、警戒するように吠えた。不安になって、縋るようにリードを強く握りしめる。