春が来たら、桜の花びら降らせてね
「あり、がとう」
小声で告げれば、夏樹君は子供のような無邪気さでニッと笑った。
私はつられるようにして口元に笑みを浮かべる。
この笑顔にいつからか、私はゆりかごにいるような安心感を抱くようになっていた。
「おーよ、無事でよかった!つか、遅くなって悪かったな。危ない目にあわせちまって……」
申し訳なさそうにする夏樹君に、私はそんなことないと首を横に振る。
「楽しみで、つい早く来すぎちゃった私が悪いから」
もとはと言えば、約束の30分前に来ちゃった私が悪い。
夏樹君に会えるのが楽しみすぎて、早朝に目が覚めてしまった。
家にいても、待ち合わせ時間まで頻回に時計を確認したりして、ソワソワ落ち着かなかった私は、我慢できず早く家を出ることにしたのだ。
「っていう俺も、楽しみすぎて30分前に着いちまったんだけど、まさか冬菜も同じだったなんてな」
「確かに!」
「つか、さっきから聞きたくてウズウズしてたんだけどさ、その子がベリーか?」
夏樹君がベリーを見て、宝石の光を反射させたかのように目を輝かせる。
「ウズウズって……ふふっ」
本当に動物が好きで堪らないといった様子の夏樹君に、私の頬が緩んだ。