春が来たら、桜の花びら降らせてね

「それじゃあ、少し歩こうぜ」

「うん」

私たちは、太陽の光に乱反射する眩しい沼のそばを一緒に歩いた。

今までの私なら、人の多い夏休みの、しかも昼時の公園に来ようだなんて絶対にしなかった。

だって、私は人間なのに、人間の中で生活することが辛い。

生きづらいだなんて考える私は、きっと人ではないのだと思うほどだ。

でも、いざ外へ出ると風が気持ちいい、水の匂いがする。

人のざわめきも、鳥の囀りのように聞こえる。
自然を近くに感じると、気持ちも解放されるようで、たまにはこうして外に出るのもいいなと思った。

「冬菜って、誰にでも真摯に向き合えるんだな」

隣を歩いていた夏樹君がポツリと雫を落とすように呟く。

私は夏樹君の横顔を見つめて「え?」と声を洩らした。

「犬だからとか、偏見なしに誰に対しても平等に接するんだなって思ってよ」

「そうかな?」

「ほら、さっきルディーに挨拶してたろ」

「あぁ……」

自然にしていたから気づかなかった。
でも、犬を飼っている人はみんな一緒じゃないのかな。

むしろ、私は人よりも純粋な動物の方が好きだ。
といっても、最近は夏樹君や琴子ちゃん、誠君や琉生君、初めてできた友達限定で、人のことも好きになれた気がする。

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