春が来たら、桜の花びら降らせてね
「夏樹君は私が悲しかった時に、イチゴ味のチョコレートで笑顔をくれて、雨で涙を流す場所をくれた」
「冬菜、でも俺は結局それしか……」
「他にもね、ピーターパンみたいに、楽しい時間をくれて……」
自分がしたことを、そんなことと言ってしまう夏樹君の言葉をさえぎった。
夏樹君の言うそんなことは、私がいつも心から欲しいと願っていたモノだったんだよ。
君は、私の世界の救世主だ。
「夏樹君と出会って初めて、私はちゃんと息をしているんだって思った」
生きているんだって、実感した。
光溢れる太陽の下、この世界にちゃんと存在してるんだって実感できたんだよ。
私は芝生に体を倒して、青空に片手を伸ばした。
距離なんて、生まれた時から変わらないはずなのに、空が前より近くに感じる。
「今までならきっと、この空を見ても、太陽の熱を感じても、風がそよいでも、何も感じなかったと思う」
見ているようで、この瞳は何も映していなかったのだろう。
手のひらを太陽に翳すと、指の間から光が漏れて目を細める。
あぁ、私の世界はこんなにも、明るかったのだ。
今は、感じる全ての刺激を新鮮に感じる。
「今は、世界が色づいて見えるようになった」
「冬菜……」
座っている夏樹君の手が、私の髪に触れた。
そして、指で遊ぶように絡ませたり、離したりを繰り返す。
それを心地よく思いながら、瞼を閉じた時だ。