春が来たら、桜の花びら降らせてね
「それ以上冬菜をイジメたら許さねーからな」
「んぐ?」
「冬菜自身であっても、冬菜を傷つけさせない。だから、それ以上自分を蔑むようなこと言ったら、一生このまんま口塞ぐかんな」
夏樹君……。
君の強引さは、どこまでも優しい。
そして、どこまでも、想いが真っすぐだ。
夏樹君が私を守ってくれるから、君が私に存在理由をくれるから、今こうして私らしく生きていられる。
君への想いは、感謝という2文字では収まりきらない。
だからね、君も俺なんかが触れたら、穢れるのになんて、言わないで。
自分を蔑むみたいな言い方を、君もしないで。
あぁそうか、自分を蔑んで傷つくのは、私を大切に思ってくれている人達なんだ。
「うっ……」
「え、冬菜??」
「ふうっ……う」
悲しくて、嬉しくて、目からぶわっと溢れる雫。
そして、頬に伝っていく涙。
驚いた夏樹君は私の口から手を離すと、憂うような顔で私を見つめた。
「ごめんね、嬉しくってつい……っ」
──嘘をついた。
本当はそれだけじゃなくて、君にも君自身を大切にしてって言いたかった。
でも言えなかったのは、君の痛みは、君が忘れられない女の子を救うことでしか消えない。
私に優しくすることは、罪悪感を少しだけ軽くするのだろう。
でも、あくまでその場しのぎだ。
根本的な解決にはならないのだから。
「冬菜……そうか、冬菜は優しくされることに飢えてんだな」
夏樹君の手が、いつもみたいに私の頭の上で落ち着く。
優しさに飢えてる……か。
確かにそうなのかもしれないと思った。
今まで、優しさを貰えないことは当たり前だった。
だから、優しくされると戸惑う、急に失ったらと怖くなる。