春が来たら、桜の花びら降らせてね

「ごめん、俺聞いちゃいけないこと聞いたかも」

考え込んでいる私に、誠君がこっそりと謝って来る。

違う、そうじゃないんだ。
だけど、本当のことを話すにはためらわれた。

でも私、こんなに大切にしてくれて、優しくしてくれるこの人たちに、何も話さないままでいいのかな。

前に、夏樹君が言ってくれた言葉を思い出す。

『可愛い花を見つけたとか、空が綺麗だったとか、冬菜が感じたもの、全部俺に教えろよ。俺はどれも、知りたい』

ささいなことでも、知りたいって言ってくれた。
みんなは、私の話を馬鹿にしたり、笑ったりはしないと思う。

信じてる、だけど怖くもある。
病気とか障害って、自分が弱者になった気分になるから。

だから、少しでも同じになりたくて努力して……。
小学生の時、その努力も虚しく私は仲間外れにされた。

あの過去が消えなくて、今も私の心に巣食うようにしているんだ。

大切な存在になってしまっているからこそ、場面緘黙症のことを話して、みんなを失ってしまったらと思うと怖い。

そんな時だった、目の前に可愛らしいピンク色の包装紙に包まれたキャンディーが差し出されたのは。

知らず知らずのうちに俯いていた顔を上げると、ニッと笑う夏樹君と目が合った。

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