春が来たら、桜の花びら降らせてね
『仕方ねーな、俺のやるよ!』
『っ……!』
ご機嫌に、千切れて不格好になった消しゴムを差し出す俺を、冬菜が驚いた顔で見た。
そんな表情の変化を見せてくれた冬菜に、喜びが隠しきれず、俺は授業中にも関わらず浮かれていた。
何か、してやりたくて仕方なかったんだ。
この時から俺は、冬菜のことが好きだったんだと思う。
誰かのためになにかしたい、胸の奥底から突き上げられるような衝動を俺は初めて知った。
『あ……っ、あ』
そんな時だ、掠れるような吐息だけの脆い声が聞こえた。
俺は聞き逃さないように耳を澄ます。
先生の授業の声、ノートを取る鉛筆の音すべてが、煩わしいと思うほどに君の声が聞きたかった。
『う……っ』
冬菜は、話そうとしていたのだ。
でも、すぐに無理だと気づいて申し訳なさそうな顔をする。
今までにも、こんなことがあった。
話そうとして、苦しそうに喉を押さえて、悲しげに諦めたように背を向ける。
本当は寂しくて、誰かと仲良くなりたいんだと気づいた瞬間だった。