春が来たら、桜の花びら降らせてね

『原田、寝転べって!』

『…………』

冬菜は俺に言われたとおりに横になる。
その瞬間に広がる冬菜の柔らかそうな長い髪を踏んでしまわないように、隣に胡坐をかいて座った。

桜に囲まれ、穏やかな笑顔で寝そべる冬菜は、宝石を見るよりずっと綺麗だと思った。

冬菜を眺めていると、胸にある幸せの種が芽吹いたように、全身に温もりが広がっていく。

どんな事情があるのかはわからないけど、いつか冬菜に話してもらえるように、強くなろうと決めた。

そんな時、『佐伯ー!』と、遠くから俺を呼ぶ声がした。

俺たちのそばに、クラスメートがわらわらと集まって来る。

『佐伯、鬼ごっこするんじゃなかったのかよ!』

『そうだよ、なんでこんなとこにいるの?』

あ、やべ……忘れてた。
約束したわけじゃないが、クラスの連中と外で遊ぶのは暗黙の了解だった。

俺は冬菜と過ごせることが嬉しくて、今の今まで他の奴等のことなど頭になかったのだ。

そう思っても時すでに遅いため、俺は今から参加すればいいかと笑って立ち上がった。

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