春が来たら、桜の花びら降らせてね
『泣いてる……のか?』
そう言った男の子に、ふつふつと込み上げる怒り。
泣いてるのか……だって。
傷つけたのはそっちなのに、しらばっくれるつもり?
けれど、こんな人のために感情的にはなりたくなかった。
ボロボロにされてもなお、失わずにいるプライドを守るため、無表情を装い男の子を見つめる。
『原田、俺……』
なにか言いたげな、眉を寄せて痛みを堪えるような顔。
それに、不覚にも驚いた。
どうして、そんな顔をするのだろうと戸惑う。
『こんなところにいた!原田地蔵なんてほっといて、早く教室戻りなよ。これから、みんなで合唱会の練習だって!』
男の子を呼びに来たのは、クラスの中心的な存在である、あの女の子。
男の子の腕をグイッと引っ張り、私を睨む。
『ねぇ、早く行こっ』
『お、おう……』
男の子は気まずそうに私をチラリと見て、すぐに背を向ける。
そして、女の子と教室の方へ歩いて行った。
私と彼等の歩く道は、一生交わることはない。
私が辿った道を、戻っていく彼等。
そして私は……。
誰もいない場所へ、ひとりぼっちになるための道を歩いて行くのだ。