春が来たら、桜の花びら降らせてね
「…………」
「ここに、ふゆにゃんのことを待ってる人がいるよ」
無言で立ち尽くす私の手を、琴子ちゃんが軽く引いてそう言った。
私のことを、待ってる人……。
そう言われて思い浮かぶのは、たった一人だった。
太陽の光に透けると、金色に見えるブラウンがかった癖のある髪。
ハッキリとした二重を細めて、ニッと笑う君の姿が脳裏に浮かぶ。
まさか……夏樹君、君なの?
「大丈夫、ふゆにゃんは一人じゃないよ」
今度は誠君がそう言って、琴子ちゃんと一緒に私の手を引くもんだから、私は一歩、門の向こうへと足を踏み出してしまう。
その瞬間から、底なし沼にでもはまったかのように、足取りが重くなった。
「一人で歩けなくなったらさ、琴子たちがふゆにゃんを担いたげるよ!」
「逃げたくなったら、俺たちが一緒に逃げてあげるからさ」
2人の言葉が、私に進む勇気と、逃げ道をくれる。
少しだけ、進む足が軽くなった気がして、私はせり上げるような喜びに目元が熱くなった。