春が来たら、桜の花びら降らせてね
「……知ってる」
もう一度そう言って、キュッと寄せられた眉。
苦しげで泣きそうに揺れる瞳。
何かを、押し殺したように引き結ばれた唇。
今のこの表情は……私の知らない夏樹君の表情だった。
「なんて……なんとなくそう思っただけだ」
隠すように作られた笑顔。
それが嘘なことは、すぐにわかった。
昔の私も辛いこと、悲しいことがあった時こそ笑っていた。
その方が、相手も自分の心も誤魔化せて、苦しさから目をそらせたから楽だったのだ。
夏樹君の隠したいモノはなんなのだろう。
でも、それを知ったら、何かが変わってしまう気がするのはなぜ?
知りたいようで、知りたくないという相反する感情に息が詰まりそうになる。
「琴子も誠も、純粋に冬菜と友達になりたかったんだよ。あいつらはな、あれが素なんだぜ、やばくね?」
やばい……といえば確かに。
世間ではあれを、バカップルと呼ぶんだろう。
見ててちょっとその……イタイ。
話題が変わったからか、さっきの夏樹君の表情のことなんて、すっかり頭から抜け落ちていた。