春が来たら、桜の花びら降らせてね

「……知ってる」

もう一度そう言って、キュッと寄せられた眉。
苦しげで泣きそうに揺れる瞳。
何かを、押し殺したように引き結ばれた唇。

今のこの表情は……私の知らない夏樹君の表情だった。

「なんて……なんとなくそう思っただけだ」

隠すように作られた笑顔。
それが嘘なことは、すぐにわかった。

昔の私も辛いこと、悲しいことがあった時こそ笑っていた。

その方が、相手も自分の心も誤魔化せて、苦しさから目をそらせたから楽だったのだ。

夏樹君の隠したいモノはなんなのだろう。
でも、それを知ったら、何かが変わってしまう気がするのはなぜ?

知りたいようで、知りたくないという相反する感情に息が詰まりそうになる。

「琴子も誠も、純粋に冬菜と友達になりたかったんだよ。あいつらはな、あれが素なんだぜ、やばくね?」

やばい……といえば確かに。
世間ではあれを、バカップルと呼ぶんだろう。

見ててちょっとその……イタイ。
話題が変わったからか、さっきの夏樹君の表情のことなんて、すっかり頭から抜け落ちていた。

< 33 / 277 >

この作品をシェア

pagetop