春が来たら、桜の花びら降らせてね

「ほら、ダウンロードできたぞ」

ダウンロード……?
返されたスマホの画面を見れば、そこには見慣れないメモアプリがダウンロードされている。

「今度から、それで筆談な」

筆談……そういうことか、文字ならいくらでも打てるから。

こんな風に私と会話しようしてくれた人、夏樹くんが初めてだ。

みんなは、話せないとわかれば離れていく。
そもそも、理解しようという気がないんだ。

みんな、自分が一人にならなければそれで良くて、笑いたくもないのに合わせて笑う。

たいして思ってもないくせに、友達が言ったからと同意する。

それができない存在……つまり私には価値がないのだ。

「それから、俺の連絡先も入れといたからな。これからは電話もメールもたくさんすんぞ」

なのに、君は私に歩み寄ろうとしてきた。
夏樹くんは、変わり者だ。

「話したいと思ったらでいい。そん時にメモアプリ使えよ」

話せって、言わないんだな。
みんなは、なんで話さないのか、喋らないのかと私を責めるのに、夏樹君は話す手段が出来ても、話したい時でいいと言ってくれる。

それが……純粋に嬉しいと思った。
素直にその言葉が胸に落ちてきた。

なにか、返したい。
でもまた、あの時のように馬鹿にされ、蔑まれたら?

それが怖いけど、せめてなにか一言でも、言葉を返したい。

そう思った私は、さっそくメモアプリで文字を打ってみる。

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