春が来たら、桜の花びら降らせてね
「冬菜、大丈夫だ」
「っ……?」
夏樹君が、ふいにそう言った。
弾かれたように顔を上げれば、私の肩に手を置いて目線を合わせてくる。
目が合うと、夏樹君は安心させるようにニカッと笑った。
「ほら、メモアプリがあんだろ」
「……あっ!」
そういえば、さっき夏樹くんがダウンロードしてくれたんだ。
すぐに胸ポケットからスマホを取り出して、文字を打つ。
しかし、打ち終えてすぐ、話せないことを打ち明けることにためらいが生まれた。
話せないってこと、それを知られることが怖い。
私が普通の人間じゃないことが知られたら、またいじめられるのではないかと、不安が膨れ上がる。
スマホを握りしめたまま俯くと、その手に誰かの手が触れた。
「全部じゃなくていい、冬菜が話したいと思ったことを話せばいいんだ」
「え……」
「みんな、少なからず隠してる想いがある。冬菜が話すことをためらうことは、おかしなことじゃないし、後ろめたさを感じることもない」
夏樹君の言葉は、それだけで私の心を救った。
私が話せないことは、みんなが本心を言わないことと同じ。
遠回しに、私がみんなと同じなのだと、言ってくれているようで、思わず泣きそうになる。
私は涙が零れないよう、静かに目を閉じた。