春が来たら、桜の花びら降らせてね
「魔法は使えねーけどさ、お前を笑顔にする。俺の持てる全ての力を使って、絶対に……」
まっすぐに見つめられて、私は視線をリュウ坊へ落とした。
夏樹君は、色んな表情をする。
楽しそうな顔、怒った顔、悲しそうな顔。
わかりやすい表情ばっかりなのに、時々、困ったような、なにかに耐えるような複雑な顔をする。
それが、どういう意味をもつのかがわからない。
わからなくて、胸が締め付けられるように苦しくなる。
「ワンッ」
「……あ!」
リュウ坊の抗議するような鳴き声でハッとして、私は「ほっといて、ごめんね」という思いを込めて、その毛並みを撫でた。
ねぇ、リュウ坊。
そのクリクリした大きな瞳を見つめて、心の中で尋ねる。
言葉がなくても……。
こうやって、見つめ合うだけで気持ちが伝わればいいのにね。
そうしたら、夏樹君の気持ちも、少しはわかるようになるのかな。
どう思う?
返事をしてみて……なんてね。
こんな馬鹿みたいなことを考えてしまうのは、言葉が無くても、心で繋がることができるって、証明したかったからかもしれない、そう思った。