春が来たら、桜の花びら降らせてね
「本当はもっと笑ったり、泣いたり、怒ったりしてたんだろうな、冬菜は」
夏樹くんの手が、私の頬をスルリと撫でた。
ビクッと、体が震える。
「あ、悪い……つい、な」
震えた私から慌てて手を引くと、夏樹君は申し訳なさそうに微笑む。
ただ、急だったから驚いただけなのに……。
なのにどうして……そんな辛そうな顔をするのだろう。
また、あの悲しみを覆い隠すような作り笑い。
なにが、夏樹君にそんな顔をさせてるのか、私はその理由を知りたいと思い始めていた。
現代文の授業中。
今日教えてくれるのは、一昨日やってきた教育実習生の先生だった。
一方的に進む授業。
先生の声以外に音はなく、しんとした時間が永遠のように続く苦痛な時間。
「じゃあ、ここの文を誰かに読んでもらいたいと思います」
──ドクンッ。
この瞬間が、いつも怖い。
担任の先生には、私の場面緘黙症のことは伝えてあるため、こういう時に当てられないよう配慮されている。
だから大丈夫だと、自分を安心させていたところで、「じゃあ原田さん、読んでくれるかしら」と、耳を疑う一言を浴びせられた。